【BOPビジネスの概要】
BOPビジネスという言葉が聞きなれない方も少なくないと思いますので概要を説明します。
初めに、抽象的に説明するとBOPビジネスとは「世界にいる多くの人を対象としたビジネス」です。
「多くの人」とはどんな基準で誰のことを指しているのか?と疑問に思われるでしょう。
ここで意味している多くの人とは世界70億人の内、年間所得3,000ドル以下で生活している40億人の人々です。
その人口規模は世界総調査対象の72%を占めていると報告されています。
「THE NEXT 4 BILLION(2007 World Resource Institute, International Finance Corporation)」
私たち日本人は世界3位のGDPを誇る大国に住んでいます。
しかし、海を超えて他国に渡れば国と国同士の貧困格差が大きく階層構造を形成しています。
この階層構造は世界人口における所得階級を表しています。
ピラミッドの底辺部分の所得層を指して"Bottom of The Pyramid"(BOP)と呼ばれるようになり、彼らを対象としたビジネスという意味づけでBOPビジネスと一般に認知されるようになりました。
私は「世界にいる多くの人々を対象としたビジネス」と説明しましたが、経済産業省が設立したBOPビジネス支援センターによるとBOPビジネスとは「途上国におけるBOP層(Base of the Economic Pyramid)を対象(消費者、生産者、販売者のいずれか、またはその組み合わせ)とした持続可能なビジネスであり、現地における様々な社会的課題(水、生活必需品・サービスの提供、貧困削減等)の解決に資することが期待される、新たなビジネスモデル」と定義づけられています。BOPビジネス全体の場規模全体は5兆億ドルに達すると言われており、少子高齢化が進む先進国の縮小市場に変わる新たな市場として世界的に注目を集めています。
では、BOPビジネスについて詳細を説明します。
【BOPビジネスの歴史】
BOPの歴史は比較的新しく、1998年にスチュアート.L.ハート、C.K.プラハラード教授が”The Strategies for the bottom of the pyramid”という研究報告書の中で、年間所得1500ドル(購買力平均)以下の人々が30~40億人いると報告したことがBOPという言葉の始まりです。
その後、2002年に両教授は”The Fortune at the bottom of the pyramid”という論文を発表し、多くの欧米企業がBOPへの関心を抱くようになりました。多くの欧米企業がBOPビジネスに関心を抱いた背景として先進国では少子高齢化が進む一方、急増する途上国の人口が将来的に高い消費力を生むという見込みが上げられます。さらに、工業製品を対象国で現地生産することによってBOP層で顕在化している
非就業人口を減らすことへ貢献し、貧困地域と呼ばれる地域における生活の質を向上させることができるという期待もあり、欧米諸国でBOPビジネスへの関心が高まりました。
スチュアート.L.ハート、C.K.プラハラードの研究報告書発表から2年後、BOPビジネスへの欧米企業の注目を背景に、開発援助機関も後押しを始めました。2000年9月、ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットに参加した189の国連加盟国は「2015年までに1日1ドル未満で生活する人口の割合を90年非で半減させる等、途上国の発展に向けた「ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development)」を掲げました。」2)これを受け、米国では2001年から途上国援助を担う米国国際開発庁(USAID: United States Agency for International Development)が企業と共同で開発援助を行うGlobal Development Alliance(GDA)を実施しました。
企業やNGOはこの計画によってUSAIDから開発事業の一部を支援してもらうことが可能になり、2001年から2009年までの間に1800件の企業が参加し、900件のプロジェクトが各国で実施されました。
投資資金の合計は、2008年までの間に90億ドルに達したと言われております。そして、2003年にはGrowing Sustainable Business(GSB)プロジェクトが開始され、この計画には資金援助等は含まれないが、途上国でのビジネスの発掘、現地企業・政府の仲介をすることでBOPビジネスの後押しを始めました。
米国がBOPビジネスに注目してから10年後、日本でもBOPビジネスへの関心が2009年頃から高まり始め、経済産業省が補正予算約3億1,000万円を付け「官民連携によるBOPビジネスの推進」という取り組みを開始しました。2010年2月に、BOPビジネス政策研究会がまとめた「BOPビジネス政策研究会報告書」は、BOPビジネスを支援する重点的な地域としてアジアを挙げ、柱となる支援分野に、食品や保険医療、
省エネ技術を活用した機器といった分野を掲げました。しかしながら、日本では政府と企業の連携や支援制度が欧米諸国と比べて不十分であり、今後、政府は日本企業のBOPビジネスを戦略的に促進する方針だと言われています。
【BOPビジネスの成功事例】
BOPビジネスの代表的な成功事例は「ユニリーバ(ヒンドゥスタン・ユニリーバ)」3)の石鹸事業です。事業の概要は、インドの農村地域に住む女性のアントレプレナーをトレーニングし、女性の自立支援をしながらユニリーバ製品を販売するビジネスモデルです。途上国における衛生環境を改善させる社会的意義の高いこのビジネスモデルにおいて、ユニリーバはUSAID、世界銀行、ユニセフから啓蒙活動のための人的資源・資金を提供してもらうことで、コストを大幅に削減することに成功しました。
このビジネスモデルの成功要因である戦略はShakti Entrepreneur Model, Shakti Vani, そしてiShaktiの3つです。初めにShakti Entrepreneur Modelとは農村地域の女性の自立支援をする社会的意義を達成すると同時に製品を販売してもらう基本モデルであり、この事実からBOPビジネスの成功要因の一つとして現地密着性が重要であると指摘できます。インド農村地域の女性は10代で結婚・出産することが一般的であり学校教育は十分に受けることは稀です。したがって、彼女たちの殆どは経済面で男性に依存的に成らざるを得えず、女性の社会的独立はインドにおける一つの課題でした。そこで、Shakti Entrepreneur Modelでは、インドの農村地域の女性にビジネス感覚を養う為のトレーニングを施すと同時に現地における販売促進ネットワークの構築も可能にしました。
次にShakti Vaniとは、衛生面での教育を推進しながら製品ブランドを伝えて行く啓蒙活動です。衛生環境が整っていない為に下痢が原因で死亡する子どもの数は年間180万人と言われ、この数は子どもの死因として世界で2番目に多い。この事実を受け、ユニセフ、USAIDなどの開発援助機関のサポートを活用し石鹸を使った衛生教育とマーケティング戦略の双方を実現しています。BOPビジネスの定義を構成要素の一つは「貧困削減等の解決に資すること」であり、社会問題の解決が進出している企業の使命です。
このように、失われる子どもの命を守ると同時に投資促進を行う組織の援助を活用し、企業の認知度を高め顕在顧客を増やしていくことは大きなヒンドゥスタン・ユニリーバの成功要因の一つです。最後にiShaktiとは、農村地域の人々とヒンドゥスタン・ユニリーバをつなぐ広告収入を基本とするコミュニケーションチャネルで、政府と連携して病院情報などを提供しています。ここで重要な要素は政府と企業のパートナーシップです。企業がグローバルな視点を持ち、海外展開する際に新市場に受け入れられるためには政府機関からの「お墨付き」が信用力となり、これが無ければ長期的な存続を可能にするロイヤリティを得ることは難しくなるでしょう。そこでiShiktiのように地域の人々と政府機関、自社と地域のコミュニティを連結するシステムを構築することがBOPビジネスで成功する要因の一つであると指摘できます。
【考察】
このようにBOPビジネス成功の為には一方通行的なビジネスではなく、現地社会に根差した潜在ニーズ分析、商品開発とイノベーション、そしてパートナーシップとネットワーク構築が必要になります。数年前まで日本の大手企業はビジネスの対象地域を先進国とし、途上国は安い労働力を目的とした生産国として捉えてきました。しかしながら、途上国における人口の爆発的急増が伝えていることは生産国としてではなく消費国として存在するアジアやアフリカ、南アメリカの国々の未来であります。国や地域を越えて日本企業が受け入れられるビジネスモデルの構築、柔軟性とコミュニケーション力が日本企業の課題の一つであり、私は将来アジアにおける社会問題解決に貢献したいと考えています。
なぜならば、日本の人口減少による市場規模縮小は顕在化している一方、日本や日本への信頼は依然としてアジアでは高いのです。そして、ASEAN諸国のGDP合計は既にロシアを抜きブラジルと肩を並べる程に成長している一方で、人口が増えすぎたために非就業者人口が高まっている国々がある、それらの国々と課題を補い合う形で日本とアジアの未来は切り開かれていくと考えているからです。BOPの定義について、様々な議論がされているが私が適切だと考える定義は”Billions of People”です。貧困層という見識は先進国目線の考えであり、世界に目を向けるということは「大多数の人々」の生活をスタンダードとして捉えることから始まるのだと考えています。
【現在と今後】
残念ながら、今年2015年までの「1日1ドル未満で生活する人々の割合を半減させる」というMGDsの目標達成は成功しませんでしたが、現在国連や政府など「川上」からの支援と、企業や国際NGOによる「川下」からの活動が「第2世代BOPビジネス」(BOP2.0)として主要先進国で取り組まれています。BOP2.0とはBOPの人々を「企業のバリューチェーン(価値連鎖:研究開発から最終商品にいたるまでの各段階で価値を付加していくプロセス)」(菅原,2011)の中に取り込むことによって途上国の社会的課題の解決と、日本企業と連携した海外展開・新規市場獲得支援の両立させる持続可能的な「包括的な市場開発(Inclusive Market Development :IMD)」です。このIMDを実現させるために「インクルーシブ・ビジネスモデル」を構築し、開発援助とBOPビジネス戦略、現地ステークホルダーとのパートナーシップが必要不可欠と言えます。
参考文献リスト
1) BOPビジネス支援センター:http://www.bop.go.jp/bop
2) 「BOP市場は日本企業の新たな市場となるのか」みずほ政策インサイト(2010年2月9日) http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/policy-insight/MSI100209.pdf#search='BOP+%E5%A4%89%E9%81%B7'
3) 「BOPビジネス先進事例集」野村総合研究所
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g91002a09j.pdf#search='%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%90+BOP'
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